企業=社会全体を幸福にしうる存在〜『持続可能な資本主義』から学ぶ

新井 和宏さんの著書『持続可能な資本主義』を読んで。

1.気になったキーワード

・資本主義の未来は「個人」がつくる
・資本主義の「主権」はいつだって消費者にある
・すべての起点は消費者
・資本主義の未来を一緒につくりあげる
・不自然なものは必ず淘汰されていく
・自然なあり方には多様性がある
・金融だから生み出せる信頼のレバレッジ
・お金ではなく、信頼のレバレッジをかけることで、信頼を拡大させていく役割を担うのが金融の役割、あるべき姿
・つながる金融
・リターンの定義を見直し、「社会性」という数値化できないものを、数値化しないままに大切にする
・「短期・分断」の資本主義から「長期・つながり」の資本主義へ
・社会にいい仕組みを「ビジネス」として構築するからこそ、よりスピーディに、大規模に、社会を巻き込んでいける
・地球の「ゴーイング・コンサーン」

2.(感想)企業こそ、人々を、社会全体を幸福に導ける存在だ

これまでの資本主義、欧米的な考えにおける、おそらく多くの人がうすうす感じ始めた違和感。

そして、日本人だからこその、視点、歴史。日本的経営。
「三方よし」から発展する「八方よし」という考え方。

鎌倉投信が認める、「いい会社」の紹介をしながら、「いい会社」の数値化できないもの、取り組みやポイントを共有することで、「八方よし」が可能であること、「八方よし」がどういうことかを説明している。

「八方よし」とは・・・
1)社員よし
2)取引先・債権者よし
3)株主よし
4)顧客よし
5)地域よし
6)社会よし
7)国よし
8)経営者よし

ちなみに、『利害関係者志向の経営』(※1)の中でも
企業にとって「一部のステークホルダーだけをもてはやすのではなく、
事業に関係するすべてのステークホルダーや支持者の幸福をともに最適化する方法を習得すること」が大切であることが説かれ、ステークホルダーとして、「顧客」「従業員」「納入業者」「マスメディア」「資金拠出者(株主、銀行)」「地域」「自然環境」が挙げられていた。

そして、「事業家こそ、社会全体を幸福にしうる存在である」とあった。

企業の役割として、全方向において幸福にする対象がある、と言えるけれど、全方向において幸福を実現することができる存在だ、ということに、とても共感するとともに、希望だと感じる。

また「幸福」「幸せ」というのがポイントだと思う。なぜなら「幸福」や「幸せ」は一人ひとり違うから。

「顧客=買い手」「従業員=人的資源」とみるのではなく、個人として、一人ひとりが、名前のついた存在、ある人にとっての家族であったり、友であり、一人ひとりが希望や感情をもつ存在として認識すること。

その大切さも内包されているように思う。

ちょっと余談だが、『「企業2020」の世界、未来をつくるリーダーシップ』(※2)の中で、2020年型企業として、以下の4つが挙げられている。

2020年型企業
1:社会と目標を一致させる
2:企業を「資本工場」と考える
3:コミュニティとしての企業の役割を理解する
4:企業を学びのための機関へと成長させる

結局、社会という集合体の中に、顧客、社員、株主といった人間の存在や、地域コミュニティ、規模が大きくなれば、国や自然環境、地球という存在が内包されており、自社さえよければいい、というものではない目標があり、それを達成するために役割があり、存在意義があるということ。

『持続可能な資本主義』の中でも、定義をつくり、指標をつくり、画一化することで企業の成長を促進するのではなく、企業の多様性を紹介し、現時点ではイレギュラー(珍しいこと)だと思われる企業の取組などを紹介することで「では、あなたの会社はどうする?」を問いを投げかけられている、と感じた。

日本の人口が着実に増加していった時代、国内で着実に右肩上がりの成長が見込めた時代を超えて、人口減少時代に突入したとき、どういう会社が生き残るのか。どうしてその会社が存在するのか。存在しなければいけないのか。

そして「企業」という単位で考えているけれど、企業や組織は、経済や社会だって、一人ひとりの個人からつくりあげられている。

本の中にも、

「資本主義の『主権』はいつだって消費者にある」
「資本主義の未来は『個人』がつくる」

というフレーズがある。

つまりそれは、
一人ひとりの消費者が、経営に関わっていることと同じ。
消費活動が、すなわち、経営方針に関わることと同じ。

そうすると、私たちは何を選択するだろうか?
普段の生活の中で、何を選び、購入することで、どの会社を応援するだろうか?

そして、さらに、「2020年型企業」は、個人にも当てはまるのではないだろうか。

自分自身の目標を、社会と共有できる部分を探り、この肉体で与えられた命を資本工場とし、心身ともにメンテナンスをしながら、コミュニティとしての自分の役割を理解しつつ、人生を学びの場として成長させる。

もちろん、目先の利益、収入も大切で、それらも大切にしながら、人生全体を見つめることの大切さが説かれているように思う。

そして、ものすごく意訳かもしれないけれど、本の中では、

自分は小さな存在だと思っているかもしれないけれど、社会をつくり、新しい資本主義をつくる仲間となり得る、可能性を秘めていること。

そして同時に、

自分自身を認め、他人を認める。
多様性を認める大切さと、既存の概念に囚われない、自然な生き方をしようじゃないか、
そこが始まりであり、ゴールである。

ということを伝えている、と感じた。

一人ひとりの生き方から、人生が、家庭が、会社が、コミュニティが、地域が、社会が、日本が、世界が変わると思う。

3.著者の新井さんに、こんなことを聞きたい&お話を伺いたいこと

・「企業の社会貢献と、NPOの企業化」ますます境界があいまいになるのでは
・資本主義の未来と、これからの日本企業の役割
・いち企業が、八方よしを目指すために、まずは何から始めたらいいのか
・本業=社会活動⇒利益、を実現するための処方箋
・世界を変えるために、企業の役割は大きい、企業だからこそ変えられることがあると思いますか?
・地球の資源を利用して生きる中で「地球のゴーイング・コンサーン」、持続可能性はアリえない。という人もいるようです。消費し続けていることは確か。ただ、結局なくなるんだから、とあぐらをかくよりも、数億年でも伸びるように消費を押さえるなどの活動は必要だと考えます。時間軸を、孫の世代、曾孫、玄孫、来孫、昆孫…どんどん伸ばしたときに、私たちが本当にとるべき行動とは、企業のあり方とは、いったい何か?

・安さだけを求めることの過ち
⇒以前、高速バスの事故があり、たくさんの若者が亡くなる事件になりました。
いろんな意見があると思いますが、私には「あれは消費者として、安さばかりを求めることにも責任がある」と思う側面があります。
安さを求めなければ、適切な金額をきちんと認識し、きちんと払うことを認識できていれば、無理な金額設定をして、その金額でも利益を出せるようにする、従業員に過剰な労働を強いたり、高速料金がかからないように下道を走る、などをしなくて済むはずだったのではと思います。
もちろん、亡くなった方に責任があるということを言いたいわけではなく、会社としての過失が十分にあるとも思います。無理なら、そんな金額設定をすることが間違っているわけですし。
でも、本当の問題は、その会社を糾弾することではなくて、一人ひとりが適切なモノの金額を判断できるようになること、値段がつくということはどういうことなのかを認識すること、そして適切な金額を払う行動ができるようになることだと思っています。
金融のプロから見る「お金」の役割とは。「お金」とは。お金の使い方とは。

余談だけれど、お金は発明されてから、役割や意味付けを、歴史の中で変えられていっていると思う・・・

 

※1:『利害関係者志向の経営』R.エドワード フリーマン (白桃書房)
※2:『「企業2020」の世界-未来をつくるリーダーシップ』パヴァン・スクデフ (日本経済新聞出版社)

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