コミュニケーション・ミスの原因〜なぜ社員同士のコミュニケーションはうまくいかないのか

多くの企業が、社員同士のコミュニケーションについて悩みを抱えています。社員同士のコミュニケーションが足りない、意思疎通ができていない、部署ごとの縦割りで横のつながりがない、という悩みは、企業の大きさに関わらずどの会社でも聞かれることです。

そして、社員もまた、部下や上司とのコミュニケーションで悩みを抱えています。それは、社員同士の人間関係で悩む、ということは、コミュニケーションで悩んでいると言っても差し支えないでしょう。

言語を操る人間だからこそ、同じ言葉を使っていれば分かり合える、と思っている方が、もしかしたら誤りなのかもしれません。

この記事では、コミュニケーション・ミスはどうして起こるのか。そして、どうすれば社員同士、もしくは上司や部下とのコミュニケーション・ミスを防げるのか、ということを考えていきます。

1.なぜコミュニケーション・ミスが起こるのか

「常識」について、一度はこんなふうに思ったことがないでしょうか。
「こうするのが常識なのに、あの人はなぜ同じことをしない(思わない)のか」

アインシュタインは「常識」についてこう言いました。「常識とは18歳までに身に着けた偏見のコレクションである」つまり、平坦に言い換えてしまうと、一人ひとり常識は違うということであり、誰かの常識は、誰かの偏見なのです。

このことを忘れて、自分と他人と同じだと思い込んでしまったとき、無自覚にコミュニケーション・ミスが起こります。

1−1.地図は領土ではない

私が学びを深めているNLP(神経言語プログラミング)ではいくつかの基本前提があります。そのひとつが「地図は領土ではない」というものです。

ものすごく当たり前のことですが、例えば日本地図を見たとき、その地図はいろんなものが省略されたり、縮尺されたり、ときには記号なので表されたりなどして、私たちがその場に立って目にする、そのものではありません。

これはコミュニケーションにも大いに当てはまることなのですが、私たちはときにそれを忘れてしまいます。

突然ですが、私の子どものころの話をさせてください。夏はよく庭でバーベキューをしていました。父がバーベキューをするための設備を作って、家族みんなでワイワイと炭を囲むのです。いつものお肉を、しょうゆを垂らして焼くのが美味しくて。畑で取れた茄子を1本丸々焼いた焼き茄子や、じゃがいもはアルミホイルで包んでホクホクで。もちろん焼きおにぎりも…振り返ると、バーベキューは今でも好きですが、みんなでワイワイ食べるのが好きなんだろうなぁと思います。

と、私が子どもの頃の思い出をお話しました。この話を聞いて、まったく同じ、庭の情景や、バーベキューの設備を思い出せるのは、家族だけでしょう。

例えば、バーベキューの設備ってどんなものを思い浮かべましたか?もしかしたら、脚が4本あるような、鉄製かステンレス製のバーベキューセットを思い浮かべた方がいらっしゃるかもしれません。「父が作った」と書いているので、どんなのをつくったのだろう?と思われていたかもしれませんね。父は、レンガを組み上げてそれを作っていました。その周りにすっぽりハマるような木のテーブルも自作して。

家族、というのも、実家は拡大家族で、親子4世代、私にとって曾祖父母も一緒にいた時期があったので、8人とかで囲んでいました。いつものお肉、というのは、子どものときは何か気にしていなかったのですが、骨付きカルビだったみたいです。

私の体験は、私がこうやって言語化することで、体験そのものではなくなってしまいます。言葉にすることで制限されることが多く存在するのです。

1−2.話す、書くときに無意識に行う3つのプロセス

上記のバーベキューの例でお分かりいただけたように、人は体験について言語化する中で、五感で感じたものをすべて言葉にして表現することは不可能です。

言語化する中で、人が無意識に行っている3つのプロセスがあります。このプロセスがあることを知ることで、コミュニケーションをとる際に、話し手、伝える側として何を意識すべきなのか、聞き手として何を意識すべきなのか、ということを理解することができるでしょう。

1−2−1.省略

まず、ひとつめは「省略」です。体験や経験した、たくさんの情報の中から、たった一部だけが選ばれて、表現されるため、情報や話し手の本意が不明確になってしまいます。

例えば、私の実家でこんな出来事がありました。ある日、祖母が孫である私の弟に「庭の木、あのすっぱいみかんがなる木を切っておいて」と依頼をしました。弟は「もう木はいらないんだな」と判断し、根本から切りました。根本から切ったため、もうその木はダメになってしまいました。そしたら祖母としては「枝が広がり、大きくなり過ぎているから、上の方を切ってっていう意味だったのに」と残念がっていました。

二人の中で「切る」という行動が一致していなかった、「切る」という言葉に省略された行動、何を、どのくらい、ということが一致していなかった結果起こったことです。

 具体例

  • みんなが反対している
  • 力が足りない
  • コミュニケーションが苦手なんです
  • 私たちはもっと協力しあわなければいけない
  • 少しはまともな意見を言ったらどうですか

1−2−2.歪曲

ふたつめは「歪曲」です。これは、話す内容を単純化するプロセスで、必然的に意味や真意が歪められてしまうことを指します。

具体的には、マインド・リーディングのような、どうやってわかったかを説明しないまま、他の人の考えや感情が分かるようなことを言ったり、2つの異なった物事がまるで同一だと思うようなことです。

例えば、マインド・リーディングであれば「上司は私のことが苦手なんです」と言うことであったり、「飲み会に誘われないのは、私が嫌われているからなんです」ということです。

具体的にどうやってそのことが分かったのか、なぜ異なるふたつのことが同じものであるかのように語られるのか、冷静に考えれば不明瞭なのですが、それを私たちは知らず知らずに見逃しています。

 具体例

  • 上司は、私のことが苦手なんです
  • もう取り返しがつかない
  • 仕事中に笑うなんて不真面目だ
  • 飲み会に誘われないのは、私が嫌われているからなんです
  • これだけ言っても聞かないのは、本気でやる気がないんだな

1−2−3.一般化

3つめは「一般化」です。これは例外や他の可能性が考慮されず、ある具体的な体験が同じ種類の体験全体を代表してしまうプロセスです。

具体的には、「みんな、絶対に、いつも」などといった、普遍化、一般化する言葉をつかったり、「〜ねばならない、してはいけない、〜べき」といった必要性を表す言葉をつかったりします。

例えば、「私はみんなに嫌われている」「あの人はいつも私の話を聞いてくれない」といったようなことです。子どもが親に何かを買ってもらおうとするときに「だってみんな持っているもん!」と言うのと同じですね。実際「みんなって?」と聞くと、2〜3人だったりします。

 具体例

  • いつも公平でいるべきだ
  • 私はみんなに嫌われている
  • あの人はいつも私の話を聞いてくれない
  • 私にはできそうもありません
  • まずは社長の意見を聞かなければいけない

2.どうすればコミュニケーション・ミスを防げるのか

1章の通り、通常の会話ではコミュニケーション・ミスは起こるべくして起こっている、ということをお感じいただけたのではないでしょうか。しかし、仕事をする上ではやはりコミュニケーションが原因のミスは防ぎたいところです。では、どうしたら、ミスを防ぐことができるのか、具体的な対策を考えていきましょう。

2−1.言語の意味や具体性を合わせる

突然ですが、あなたは「人はみんな貢献すべき」と言われたら、何に対して、どんな行動を思いますか?もしかしたら、本当に貢献すべきなのか、と思われるかもしれませんね。

そこに同意したとしても、地球に貢献、という大きな規模で考えて、環境に配慮することが貢献だと考える人もいるかもしれませんし、会社の中で、周りの人を助ける動きをすることで周りに貢献している、他者に貢献している、と実感できる人もいるかもしれません。存在するだけで貢献だ、という人もいるかもしれません。

それは一人ひとり「貢献」が意味することが違うからです。「貢献」に紐づけているイメージや具体例がそれぞれ異なるからです。人によって、ささやかな行動を貢献だと感じる人もいれば、大きな影響、インパクトを与えてこそ貢献だ、と思っている人もいます。どちらも正解だと思うのです。しかし、その二人が、単純に「貢献」という話をしても話が噛み合わないでしょう。

一人ひとりが持っている言葉の意味は、実は大なり小なり異なっているのです。日本語という共通言語を持っているということにあぐらをかくのではなく、言葉の意味や定義を社内で合わせることはとても有意義なことです。

「ちゃんとしてって言ったのに、なんでちゃんとできないの?」子育ての場面などでよく聞く言葉ですが、これは大人同士でもよくやっていることです。子育て場面では、ちゃんと、とまとめるのではなく、「椅子にじっと座って」などと具体的に伝えましょう、と言われます。大人も同様です。

指示を出す側でも、指示をされる側でも「これ、やっておいて」「はい」という会話だけで終わらせていることはありませんか。そして、指示する側としては、自分が思っていた期限に「できた?」と聞き、できていなければ「なんでやっていないんだ(怒)」ということになったりします。

もし、あなたが指示を出す側であれば、いつまでに、どこまで、という具体性を持って伝えることを意識することが大切です。自分は伝えているつもりかもしれません。自分の伝え方を改めて振り返るには「2−3.言語のメタモデル」を参照してください。

もし、あなたが指示を受ける側であれば、こちらから具体性を確認をすることが必要ですが、それには次のスキルが有効でしょう。

2−2.バーバルパッケージ(意思伝達パッケージ)

上司に「これやっといて」と言われて「いつまでに?どこまで?」ということを具体的に聞きたくても、そのままストレートに聞いてしまっては「自分で考えろ」と突き返されて、結局「やっていない」と怒られた、という経験がある人は少なくないのではと思います。

上司が具体的に伝える重要性を実感してくれるのがベストですが、今すぐに自分ができることとして「バーバルパッケージ(意思伝達パッケージ)」をお伝えします。

手順は以下のとおりです。

1:プリフレーミング
2:質問
3:確認(パラフレーズ)

2−2−1.プリフレーミング

まずは喜んで相手が質問に答えてくれる状況をつくります。よりよくしたい思いが先行して、いきなり質問をしてしまいがちなのですが、残念ながらそれでは反発を生むこともあります。

無用な反発を受けないためにも、なんのために質問をするのか意図を伝え、質問をする許可を得ます。

例えば「信頼して任せてもらったこの仕事を、うまく行いたいと思っているのですが、ご期待に添えるように、いくつか質問をさせてもらってもいいですか」「ご迷惑をおかけしないためにも、もう少し具体的に理解をしておきたいのですが、質問をしてもいいですか」などと伝えます。

2−2−2.質問

そして、次に省略・歪曲・一般化を補足する質問をします。このプロセスでは、自分の解釈を入れずに、質問によって相手の言語に表れていなかったことを明確にしていきます。

具体的に、どうやって埋める質問をしたらいいのか、ということについては、「2−3.言語のメタモデル」を参照してください。

2−2−3.確認(パラフレーズ)

質問をして具体的にされた相手の言葉を、自分の言葉で言い換えて、相手の考えと自分の考え、解釈が一致しているかを確認します。

もしここで自分の解釈が違っていれば、相手は指摘するでしょうし、その際は、また質問をするなどして解釈をすり合わせていきます。

2−3.言語のメタモデル

メタモデルとは、経験や体験などにおける無数の情報から表面的に出た言葉がどういう意味を持っているのか、ということを質問によって明確にし、言葉とその奥にある体験を結びつけ、コミュニケーションを完全なものにしようとすることを言います。

上記のバーバルパッケージの中における質問および、自分が伝えていること、指示などが、なぜ伝わらないのか?という悩みを抱えている場合にも、これらのことを自らに問うことが可能です。

2−3−1.「省略」を埋める質問

おさらいですが、ひとつめの「省略」は、体験や経験した、たくさんの情報の中から、たった一部だけが選ばれて、表現されるため、情報や話し手の本意が不明確になってしまうことでした。

そのためには、省略されている部分を埋める質問が必要です。具体的には「何を」「誰が」「どのように」「いつ」「どこで」「何に比べて」といったようなことです。

 具体例

  • みんなが反対している
     ⇒ 具体的には誰が反対しているのですか?
  • 力が足りない
     ⇒ 誰と比べて?
  • コミュニケーションが苦手なんです
     ⇒ 具体的には?あなたにとってコミュニケーションとは何を意味している?誰が?どのように?
  • 私たちはもっと協力しあわなければいけない
     ⇒ 協力とはどうすれば協力になる?何について?

2−3−2.「歪曲」を防ぐ質問

ふたつめの「歪曲」は、話す内容を単純化するプロセスで、必然的に意味や真意が歪められてしまうことを指します。

よって、因果関係を問うたり、本当に、そのふたつのことは同一のことを意味するのか、といったことや、マインド・リーディングや思い込みが入っていることを確認をする質問です。

具体例

  • 上司は、私のことが苦手なんです
     ⇒ どのようにそれが分かるのですか?
  • もう取り返しがつかない
     ⇒ 誰がそう言うのですか?何を基準にそう思うのですか?
  • 仕事中に笑うなんて不真面目だ
     ⇒ どのように、仕事中に笑うことと不真面目が一致するのですか?
  • 飲み会に誘われないのは、私が嫌われているからなんです
     ⇒ 誘われていなくて嫌われていなかったことは一度もないの?どのように、誘われないことと嫌われていることが意味するの?

2−3−3.「一般化」から脱却する質問

3つめの「一般化」は、例外や他の可能性が考慮されず、ある具体的な体験が同じ種類の体験全体を代表してしまうプロセスのことです。

ですので、不可能であるという前提の正当性や原因を問うたり、一般化を否定する例外を探求する質問、仮定の話として予測される結果や効果を質問します。

 具体例

  • いつも公平でいるべきだ 
      ⇒ 何があなたをそうさせるのですか?もししないとどうなる?
  • 私はみんなに嫌われている
      ⇒  みんな?誰一人、決して一度もなかったのでしょうか?
  • あの人はいつも私の話を聞いてくれない
      ⇒  いつも?一度も?
  • 私にはできそうもありません 
      ⇒  止めているものはなんですか?もし、したらどうなる?

3.まとめ

私たちは、何気なく日常生活の中で、そして学業としての「国語」は習っていますが、コミュニケーションについて、いかに意思伝達をするのかということについては、学校でも、きっと家庭でも教えてもらっていないのではないでしょうか。

コミュニケーションとは、伝わらない、分からないのが当たり前、くらいがちょうどよいのではないでしょうか。相手と自分が同じだと思うこと自体がすれ違う一歩、間違いの大きな一歩なのかもしれません。

それは、分り合えない、伝えることは無理だと絶望しているわけではなく、伝わらない、分からないという前提があるからこそ、「どうすれば伝わるのか」「どうすれば分り合えるのか」という立場に立てる、その努力が可能だと信じられるということです。

今回は、普段、意識せずにつかっている言葉というものが、いかにコミュニケーション・ミスを生み出しやすいのかを知り、そして、どうすればそれを防ぐことができるのか、ということを探求しました。もちろん、この知識だけでコミュニケーションがうまくいくわけではありません。

他にもコミュニケーション・ミスを防ぐための必要なスキル『傾聴について』などといった記事がありますので、ぜひそちらも参照してみてください。

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