企業における、理念が大切。ビジョン大切。ミッション大切。ということは耳にする、目にするけれど、正確にビジョンやミッションが意味することが何なのか、ということを考えたところ、結局個人の生き方に終着する。
アメリカの医療機器メーカー「メドトロニック」の共同創業者アール・ベッケンは、企業の存在目的について、こう説いている。
「メドトロニックの物語は、自分の人生とキャリアを賭けて、現実の人々が痛みや障害を克服し、まっとうで幸せな生活を送るためのお手伝いをする社員一人一人の物語、いくら聞いても、いくら話しても飽きることのない物語なのです。」
そして、会社の目的を再発見することの力について、同社の株式時価総額を11億ドルから600億ドルへ拡大させた、CEOビル・ジョージはこう言う。
創業者のアール・ベッケンが行っていた従業員向けのミッションイベントは「素晴らしい」の一言でした。一時間のスピーチのあとで、従業員たちにブロンズのメダルを渡したのです。そこには会社のシンボルが描かれていました。一人の人が手術台から起き上がって、健康な生活に向かって歩いて行くという図柄でした。アールがいた当時のメドトロニックの哲学は、どんな時でも「私たちは人々の身体に心臓ペースメーカーを入れているのではない。人々に充実した生活と健康を取り戻しているのだ」というものでした。メダルを渡したあと、こう言っていました。「皆さんの仕事は会社のためにお金を稼ぐことではありません。人々に充実した生活と健康を取り戻してあげることなのです」休日に開くパーティのたびに、六名の患者さんを招き、当社の装置を使った脊髄手術で皆さんの人生がどう変わったかをお聞きしたものです。これこそが当社の背骨、心臓、つまりは存在意義だったのです。
経営者であれば、自社において、何が当てはまるのか。社員にとって、自分が勤めている会社がどんな目的で存在するのか、ということを語れるだろうか。
経営者であれ、個人事業主であれ、非営利団体であれ、事業を行うものにとって、存在目的とはいったい何なのか?
それは、この問いに答えることから始まる。
「なぜ我々は存在しているのか?なぜ我々は存在する必要があるのか?」
人間一人ひとりの存在については、実は存在目的や、意味を持たないと考える。それは価値がない、ということではなく、生きることそのものが存在価値なのだということだ。これについては、また別途。
しかし、企業においては、存在目的があるはずだと考える。(目的を、どこに置くかは別として)
目的がないビジネス、目的がない会社ならなくなっても困らないはずだし、だからこそ潰れるのではないか。
そして、自社の存在目的とは?を考える前に、きちんと言葉の定義を明確にしたい。
目的:自分が世界をどう良くしたいのかを語ること
使命(ミッション):その目的を実現するために実行されるべき中核的な戦略
ビジョン:自分たちの目的があらかた実現した暁に世界がどのように見えているのか、という生き生きとした想像上の概念または光景
「あらゆるビジネスの目的は利益と株主価値の最大化にある」という資本主義から変化して、「企業の目的、ビジネスの目的は利益ではない」ということは様々なところで聞くようになった。
上記の定義によると「自分が世界をどう良くしたいのかを語ること」
事業を通して、どの分野、どのジャンルに、どんなアプローチで、どう良くしたいのかを具体的に語るということなのだろう。
存在目的の例:
ディズニー:想像力を駆使して数百人の人々に幸福をもたらす。
ジョンソン・エンド・ジョンソン:痛みと苦しみを和らげる。
BMW:車を運転する人々すべてに喜びを提供する
先日、植松電機 植松努さんの講演を聴く機会があった。その中で「子どもが夢を語ったら、ぜひ、『なんで?』という部分まで大切にしてほしい」というようなことをおっしゃっていた。
例えば子どもが「医者になりたい」と言ったら、「学費が大変だから」「いっぱい勉強しないといけないから無理」ということを言ってしまう親が多い。
でも医者になりたい理由が「困っている人を助けたい」ということであれば、手術をしている機会は医者が作っていますか?そうではないでしょう。医療機器をつくる仕事だって、それにつながる、というようなお話をされていた。
余談だが、植松さんの同級生に「仮面ライダーになりたい」と言っていた子がいたそうだ。高校生になっても「仮面ライダーになりたい」と言っていて、彼は結局、ライダースーツを作る仕事に就いたそう。
確かに、仮面ライダーそのものになれたわけではないけれど、それは彼なりの「目的」を叶えているのではないだろうか。
なぜ、あなたの会社は、あなたは、その事業を行うのか?
あなたは、事業を通して、何をより良くしたいと思っているのか?
その目的が実現された世界は、何が見え、聞こえ、感じられるのだろうか?
それらを、あなたは社員に、周りの人に、生き生きと語ることができるだろうか?
自分自身振り返って、改めて、言葉にしようと思う。
注釈:引用部はすべて『世界でいちばん大切にしたい会社』より